パナマ症候群

パナマ症候群という病気がある。突然全身の筋肉が麻痺を起こし腎臓の機能が低下する。人工呼吸器、血液透析を必要とするが、それでも死亡率は50%に達するという。この病気は言葉通り南米のパナマで猛威をふるい、千名以上の人が死亡し、いきのこった多くの人も筋力低下の後遺症に悩まされる。
日本における公害や薬害の経験から、こうした病気は未知の微生物によって引き起こされたのではなく、何らかの毒物によると考えるのが妥当だろう。パナマの医師もそう考えた。結果患者さんの体内から検出されたのがエチレングリコール、過去にも中毒事件の原因として騒がれたことのある溶剤だ。
なぜそうした集団中毒事件が起きたかというと、ある中国メーカーがエチレングリコールグリセリンと偽って販売。それをヨ−ロッパの輸入代理店がパナマに輸出。これが風邪薬の基剤(有効成分を包んで錠剤にするもの)として使用された。
不思議なことにこの事件では誰も責任をとろうとしていない。本来口に入れることのできない薬品を無害なグリセリンとして販売した業者も、ラベルを鵜呑みにして風邪薬に使った業者も、こんな危険な製品を各国に売りさばいた会社も自らの責任を認めようとはしていないという。
間違っては困るがエチレングリコールそのものは有用な物質だ。ただしそれはあくまで人間の口に入ることのない限られた目的に使われてのことであって、グリセリンの代わりになるような代物ではない。
また私はこの事件を何が何でも中国は嫌いだという人たちに同調する目的で持ち出したのではない。しかし現在世界を席巻している赤い資本主義には、官僚主義と拝金主義のアマルガムがあり、その根本的な無理が世界市場への開放で大きく露呈してきているように思える。
ずいぶん前に<中国が市場経済を導入すれば必然的に民主主義への道が開かれる>という楽観論が聞かれたことがあったが、市場経済や資本主義と民主主義が一対一で対応していると考える方が時代遅れだと私などには思える。