現実主義者とつきあう道

このところずっとポッドキャストオバマ大統領のスピーチを聴いている。彼の演説は大統領選のあいだも聴いてきたが、大統領職に就いた後彼の発言がどのように変化するのかに興味があった。それにもう一つ。日本の(ばかりではなく欧米の)ニュースで伝えられる大統領の発言は、きわめて断片的でメディアの主観が挟まっているので、発言の真意がつかみにくい。幸いホワイトハウスは毎日のように大統領のスピーチをアップロードするので、生の発言を追いかけることが出来る。
前任者と比較すると、ブッシュが良くも悪くもイデオロギーの人間だったのにたいして、彼は「チェンジ」を掲げて当選したが、きわめて現実的な考えをする人間だ。彼のいう「グリ−ン・ニュー・ディール」には核エネルギーは含まれていないが、原発を頭から否定するようなかたくなな姿勢はない。ブッシュが「悪の枢軸」論や温暖化問題への後ろ向きの姿勢で、国際的に孤立を深めたのとは対象的だ。医療制度改革についても、既存の民間医療保険の枠を温存しながら、公的関与を強めて皆保険を実現しようという方針のようだ。
問題はこの冷徹な現実主義者とどうつきあっていくかにある。さすがに一時の「アンクルトム」論は影を潜めたようだが、現実主義者であり、核超大国の最高指揮官である彼が、「核のない世界」「朝鮮半島の非核化」を口にし、イランとの和解を呼びかけているのは注目すべきものだと私は思う。少なくとも隣国をあしざまにけなすことでしか自己の存在価値を誇示できない一部の人より、よほどつきあいやすいと思うのだが。