二足歩行への憧憬

二月以上日記を書かなかった。仕事が忙しかったことはもちろんある。また書きたいことはあっても、プライバシーにふれる、ひんしゅくを買うか下手をすると訴えられかねないネタばかりで、かけなかったこともあった。しかし一番の理由は私の病気だ。
五月末机で書き物をしていて何気なく立ち上がったとたん、右のかかとに頭に響くような痛みを感じた。
一〇年ほど前から年に二三回かかとの痛みや腫れを起こすことがあった。いろいろ調べても原因はわからない、というよりは整形外科医には原因がどうかというのはあまり興味がなさそうに見える。病名はいろいろにいわれるが結局安静と(ひどいときには)注射で良くなる。
様子が変わってきたのが今年に入ってからだ。まず発作の回数が増えた。たいがい一月に一度は起こる。また簡単に良くなってくれない。四月末にやったときは、局所に注射したステロイドが効かないので続けて二度注射してもらった。そのときに、かかとにステロイドを注射すると、アキレス腱が弱くなって切れやすいから、できるだけ避けた方がいいといわれた。
五月末の時は最初できるだけ我慢しようと思った。痛み止めののみ薬と湿布でやってみたが全然効果がない。しょうことなく病院の近所の整形外科に行き局所麻酔剤を打ってもらったが、一〇分もたたないうちに効果がなくなった。文字通り玄関を出たとたんに痛みがぶり返したかっこうだ。いよいよ覚悟を決めてステロイドをうってもらったが、普段なら2日もすれば引いてくる痛みが全然消えない。
二週間目には体のだるさと頭痛が起こり「これは、ひょっとすると注射の時に弱毒菌でも感染したのだろうか」と思って抗生物質を始めたがこれも外れ。局所を氷で冷やしたり、逆に温湿布をしてみたり、人に勧められるままに漢方薬を使ったり針をしてもらったりしたが、どれ一つ私の痛みを取り除いてくれない。
たった今は職場では車いすを使い家では杖を使っているが、夜中に痛みで目が覚めて、「今ここで足を床につけたらどれだけの痛みが起きるのだろうか」とおもうと、トイレに行くのにさえも勇気がいる。いよいよ困ることには足下がおぼつかないから転びそうになるが、そうするたびにひどい痛みが引き起こされる。
病院で私にあてがわれた部屋には二月間放置された自転車が壁に立てかけてある。最初「いつ自転車に乗れるようになるだろうか」と思っていたが、この頃はそんな高望みはできないと思っている。正直なところ道を歩いている人がうらやましい。笑って買い物をしている人がねたましい。
さわってみるとかかとの腫れは人差し指で隠れるほど狭い範囲の物だ。それがどれだけ多くの物(旅行、散歩、買い物、笑い、集中力、気力などなどなどなどなど)を私から奪ったのか、驚くほどだ。秋には初孫が生まれるが何とか孫をだっこして歩いてみたいと思う。